バレンタインの話
シリーズ本編前のイメージ
手作りがいいとか恋が叶うチョコレートがあるとか、この2月の時期になるとそんな話題が飛び交う。
そして、私もまたこの甘ったるい空気にあてられて百貨店の催事コーナーをうろうろとしてしまう。
手作りはなんか明らかに本命っぽくてハードル高いし、失敗したら嫌だし……市販でいいよね?
うんうんと自分に言い聞かせショーケースに飾られているチョコレートたちを見る。
千冬やクラスの子達に渡すチョコを購入、
その時なぜか場地くんには皆とは違うチョコを渡したいなんて思ってしまう。
場地くんの顔を思い浮かべながらこういうの好きかな?
なんて想像しながらチョコレートを選んだ。
お値段は予想の金額より高くなったけど問題ない。
これぐらい感謝の気持ちとして渡せば全然大丈夫、たぶん。
***
2月14日、バレンタインデー当日。
私は早く場地くんにチョコを渡して日頃の感謝という事で穏便にこのイベントを終わらせたかった。なのに……
「これ受け取ってください!前から気になってたの!!」
なんと人気のない階段の踊り場で場地くんは女の子にチョコレートを渡されていた。
ああ、なんてタイミング悪く発見しちゃったんだろう、曲がり角で私は立ち止まってしまう。
場地くん優しいし普通に「ありがとな!」なんて言って貰っちゃうんだろうな……
その子、ますます場地くんの事好きになっちゃうでしょ? 付き合ったりしたら嫌だな……。
そんなことを思っていると場地くんは、
「あーワリィ、そういうやつ俺受け取れねーんだワ」
告白の返事どころかチョコを受け取らなかった、女の子は「ひどい!」と言って足早に去っていった。
わざとじゃなかったとはいえ告白現場に居合わせてしまい申し訳ない気持ちもあったが
正直場地くんがチョコを受け取らなかったことにホッとしてしまった。
場地くんは頭を掻きながらこちらへ振り向こうとしたので慌てて私はその場を離れた。
そりゃあガリ勉スタイルをしていてもかっこいい事ぐらいバレちゃうだろうし、モテるだろうし、
そういう事もあると思ってはいたけど実際告白現場を目の当たりにするとやっぱりちょっとへこむ。
どうやら場地くんは本命チョコだと分かると受け取らないようにしているみたいだけど。
……私はどうなんだろう? このチョコレートは義理なのか本命なのか。
結局朝はチョコを渡せなかったし授業なんて集中できなかった。そしていつの間にかお昼の時間になっていた。
ランチタイムはすっかりお菓子配り大会となっていてクラスは盛り上がっていた。
友達はスプーンチョコやブラウニーなどを手作りしていて私はそのお返しに個包装のチョコクランチを渡す。
手作りも大量生産向きなものは義理チョコ友チョコ向けだと女の子達は語る。
「よぉ!ちゃん、俺にチョコねーの?」
千冬がニコニコとチョコをたんまりと貰っていた、大半が義理チョコとはいえ昔のささくれ立った千冬ではありえなかった光景になんだか嬉しくなる。
「はい!これあげる」
いつも仲良くしてもらってるお礼に特別多めに渡した。
「サンキュ!ちゃん昔はチロルチョコ俺にくれたよな、バージョンアップだな!」
「それ小学生の時の話じゃん、そりゃあ成長するよ!ってかさこっちのチョコ見てどう思う?」
私は場地くんにあげる予定のチョコレートを千冬に見せる。
「おおーなんか気合はいってんな、本命みてー」なんて千冬にニヤニヤしながら言われちょっと恥ずかしくなる。
「やっぱりそう見えるよね? どうしよ場地くんに渡そうとしてたんだけど……やっぱりこれ辞めてこっちのクランチチョコを渡そうかな?」
そう言った瞬間千冬は私の友達用クランチチョコの袋を奪った。
「何言ってんだよ、場地さんぐらいスゲー人にはそっちのチョコだろ!こっちは俺がお前の代わりに配っておいてやるよ!!」
「ええ!?」
そう言って千冬はクラスの人やオカルト研究部の人たちに「これのチョコ!!!」と言いながら配り始めた。
た、退路が断たれた……手元にあるのはこのチョコになってしまった。
千冬にそこまでされては仕方ない、開き直って渡そう。
***
場地くんのクラスに行き教室のドアから彼を探す、うーんいない……。
「何してんだ?」
「わっ、ば、場地くん!?」
後ろから急に声をかけられて驚いてしまう。
「驚きすぎじゃね?」
「だって探してた所だし……」
場地くんはふーんと軽く返事して私の持っている物に視線を移す。
「それ俺のか?」
「うん、そうなんだけど……」
そうだよと何事もなくサラッと渡せばいいのに義理だとか本命だとか考えると体が動かない。
「なんだよ早く寄越せよ」
場地くんは私のチョコを取ろうと手を伸ばすが私は咄嗟に避けてしまう。
「ああ!?何で避けンだよ?俺のだろ?」
「本命だったら受け取ってくれないでしょ?」
「は?え、それ本命なのか??」
場地くんは目を丸くしていた、やばい余計な事言ってしまった……。
「ほ、本命かわかんないけど、義理でもないし……」
今の関係を壊したくなくて本命で渡す勇気もないくせに義理なんて思われたくも無いとか、なんて面倒臭いんだ私は!!
場地くんはふーんと言いながら私の手からチョコを取った。
「あ……」
「義理だろうが本命だろうがお前からなら何でもいーぜ」
フフンと得意げにちょっと意地悪そうな笑顔を向けられる。その表情を見た瞬間、なんかいいなと思ってしまい顔がなんだか熱くて、場地くんをまともに見れない。
私が顔を俯いて背けようとしても場地くんはこちらを追いかけるように屈んで覗き込んできた。
「お前……顔真っ赤だな」
「恥ずかしいから見ないで……」
今日の場地くんはちょっと意地悪だ。
「嫌だね、お前だって俺の事色々からかったりすンだろ?おかげさまってヤツだ」
「それ、おかげさまじゃなくてお互い様……」
「あ?ンなのどっちも同じ意味だろ?」
「もう、全然違う意味だよ?おかげさまじゃ感謝しちゃってるじゃん」
場地くんおなじみの言い間違いに私は思わず笑ってしまう、さっきの熱さが冷却されてホッとする。
「すぐ調子戻りやがって……まあいいか、これ大事に食うからありがとな」
「うん、また感想きかせてね」
場地くんは私のチョコをヒラヒラとしながら教室に帰っていった。
こうして私の空回りバレンタインデーは幕を閉じた。
***
おまけ(場地視点)
放課後、団地の階段に座り千冬と今日貰ったチョコを出していく。
から貰ったチョコを開けるとシンプルな板チョコのように見えるがナッツやアーモンドやらが混ざっていて食いごたえがありそうだ。
俺が好きそうな物選んで買ってきたンだろうな、ホント俺の事好きだよなアイツ、どういう意味の好きかわかんねえけど。
「ちゃんのチョコうまそー!場地さん、俺もひと口……!!」
千冬が突然俺からのチョコレートを奪おうとしてきたのでチョップした。
千冬は「ぐえっ!」と変な声を出して頭を抑えてうずくまる。
「馬鹿か!このチョコは渡さねーよ、千冬もにチョコ貰ってんだろ!」
「そうっスけど、あれは義理チョコなんで場地さんのとは違うじゃないスか!!うまそーなんでひと口!!」
「ああ!?お前はいつもペヤング半分こしてんだろ!これは絶対やんねー!」
のチョコは誰にもやれない、本命だろうが義理だろうが特別なモンだから。